好きと嫌いが共存する、身近ゆえに生まれる感情の複雑さ──

要約 : アンビバレンスとは、一つの対象に対して、相反する感情や態度が同時に存在している状態を意味する。それは未熟さや優柔不断ではなく、人が他者や自分自身と深く関わろうとするとき避けられずに生じる、心の自然な構造と言える。

矛盾した感情が同時に存在

好きなのに嫌い、近づきたいのに離れたい、行きたいのに行きたくない、寂しがり屋の一人好き。

こういった矛盾した気持ちが、同時に心の中にある状態を、アンビバレンスと言う。

人は、つい感情を単純に整理したくなる。好きか嫌いか、行くか行かないか、白か黒か。でも、心や感情はそんなに簡単にまとめられるものでもない。

たとえ恋愛関係にあっても、好きだからいつも好き一色ということもなければ、大切ゆえに離れたくなる、ということもある。

根っこでは好きだし大切だと思っていても、今は一時的に離れたいという感情が高まってしまっている、というタイミングの問題もある。

体調がそうであるように感情も流動的なものであり、一つの対象に対し、複数の感情が並存すること自体はとても自然なことと言える。

深く関わるからこそ生じる矛盾

アンビバレンスは、未熟さや優柔不断の結果ではなく、むしろ人が他者や自分自身と深く関わろうとするときに避けられない心の構造だ。

大切なものほど、依存や期待外れの失望感、不安や恐れが重なり合い、感情は単純ではなくなる。

表面的な関係や、どうでもいい相手には、アンビバレンスは生じない。

全く無関心の相手に、矛盾した感情を抱くことはない。

逆に言えば、アンビバレンスを感じるということは、その対象が自分にとって重要という証かもしれない。

愛と憎しみは紙一重とも言われるように、特に親密な関係や愛情のなかにこそ、アンビバレンスが強く現れると言われる。

恋愛関係にある恋人や夫婦、思春期の子と親など、身近な存在であるほど、愛情とともにたとえば攻撃性などが向くこともある。

どちらかが偽物、ではない

日常で感じる迷いや揺れは、どちらかが偽物なのではなく、両方が本物であることも多い。

愛しているという感情も本物だし、離れたいという感情も本物だ。矛盾しているように見えても、それらは同時に真実として存在している。

アンビバレンスな感情が生じたとき、多くの人は「自分の気持ちがわからない」と混乱する。

あるいは、「どちらかに決めなければ」と自分を追い詰める。

でも、本当は無理に一つに絞る必要はないのかもしれない。

心は、常に一貫している必要はない。揺れていてもいいし、矛盾していてもいい。

その複雑さをそのまま認めることが、自分自身を受け入れることでもある。

複雑さを引き受ける

アンビバレンスとは、心が分裂している状態ではなく、複雑さをそのまま引き受けている状態と言える。

人間関係も、人生の選択も、感情も、すべては単純な二択ではない。そんな風に矛盾を抱えながら生きることこそが、人間らしさなのかもしれない。

完全に割り切れる感情、完全に一貫した態度——それは理想かもしれないが、現実の人間の心は、もっと曖昧で、揺れ動き、矛盾に満ちている。

好きでもあり、嫌いでもある。行きたくもあるし、行きたくなくもある。

その揺れを、無理に解消しようとせず、「まあ、そういうもんだ」と、今はただそこにあるものとして置いておくこと。

それが、自分自身と誠実に向き合うということでもあるのかもしれない。

関連用語 : 認知的不協和